いいモノを作ることができても、売れないのはなぜ?

良質な商品を作って提供しているにも関わらず、一向に売り上げは上がらず、業績不振に追い込まれる企業は少なくありません。一方で顧客との良好な関係を築き、市場のシェアを広げ、大企業へと駆け上がる企業も存在します。両者には、どのような違いがあるのでしょうか。それは、「コミュニケーション戦略」という考え方で説明できます。まず、ここでは、コミュニケーション戦略とは何か、どのように取り組むべきかについて説明します。

目次

「いいモノ」が売れる時代は終わった

「うちの商品は、厳選した原料と優れた製法で作られた良い商品です。企業努力の結果、価格設定も低く抑えています。」

ちょっと待ってください。御社の商品が「良い商品」であると、誰が決めるのでしょう。

「いいモノを作れば、ほっといても売れる。」

かつては「モノづくり日本」のプライドから、このように考える経営者も多くいました。良い品質であれば、営業努力もプロモーションも必要ない。商品が良ければ必ず売れる…。この考え方は昨今の市場においては、通用しなくなりつつあります。

今や市場には多くの商品やサービスが溢れ、他社との差別化が図れなければ、自社の製品やサービスは埋没してしまうでしょう。市場のニーズをとらえて売れる商品を作り、顧客を満足させ、さらには次も自社の商品を選んでもらえるための仕組みを作る。

この流れが「マーケティング」というコンセプトであり、経営理念にかかげる企業も少なくありません。広告や会社案内でよく目にする、「お客様の立場に立って」というフレーズは、顧客第一主義の姿勢を端的に表すきまり文句になっています。

「いいモノ」かどうかを決めるのは顧客

自社の製品やサービスが良いかどうか、その判断を下すのは顧客です。顧客がお金を出してその商品を欲しがるか、また、その商品により顧客にどんな付加価値がもたらされるのか。そこを読み誤ると、いくら「いいモノ」を市場に投入しても、顧客には見向きもされません。

自社から絶えず情報発信を行い、顧客との良好な関係を築くこと。その上で、お互いの信頼関係に基づいて、常に顧客のニーズを満たす商品やサービスを提供すること。この循環が長く続けば、その企業は競合他社との差別化を図り、企業は市場における存在感を高めることができるでしょう。

コミュニケーション戦略とは何か

マーケティングにおいては、「マーケティング・ミックス」という考え方があります。これは、事業戦略や設定した目標を見据えて展開する、具体的なマーケティング手法の組み合わせを指します。このマーケティング手法は、以下の4つに分けられます。

  • 商品政策(=Product/プロダクト)
  • 流通チャネル政策(=Place/プレイス)
  • プロモーション政策(=Promotion/プロモーション)
  • 価格政策(=Price/プライス)

この4つの政策は、その頭文字を取って、「4P政策」などと呼ばれます。コミュニケーション戦略は、上記のうち、プロモーション政策にあたります。プロモーションと言うと、売上やシェアの獲得を目的とした、広告宣伝や販売促進活動をイメージされると思います。

しかしコミュニケーション戦略は、売り込むというよりは、自社と顧客との双方向のコミュニケーションであり、お互いに理解し、相手を満足させる手法です。さらに今の情報化社会では、いかにこちらの情報を市場や顧客に伝えるかだけではなく、どのようにすれば、顧客から自社に興味を持ってもらえるかを考える必要があります。

これまでは大幅なコストをかけてテレビや新聞などのマス媒体を介した広告活動が、マーケティングにおいて大きなウエイトを占めていました。昨今では、インターネットを利用した双方向コミュニケーションが日常化し、顧客が商品を買う前から、企業とコミュニケーションを取るようにもなりました。

また、購買後に顧客同士がコミュニケーションを交わし、企業がそれをプロモーションに活用するなど、様々なコミュニケーションの形態が見られるようになっています。

プロモーションとコミュニケーション

企業が市場を見極め、市場ニーズを満たす価値を作って商品やサービスに適正価格を設定して提供する。一見、理想的な事業活動のように見えますが、重要なことが一つ欠けています。せっかくの商品やサービスも、その存在を顧客に認知してもらえなければ、意味がありません。

コミュニケーション戦略では、企業が伝えたいメッセージと、それを伝える手段としてのメディアを選びます。そのためには、「どの市場をターゲットとするのか」をはっきりさせ、「顧客がどうしたら、自社の商品を買いたいと思うか」を正確につかむことが重要になります。さらに、マネジメントの成果が客観的に評価できるように、効果測定もできる仕組みが必要です。

顧客の反応のプロセスを把握する

コミュニケーションのターゲットとなる顧客が選定されると、有効なコミュニケーションが実施されることになるのですが、単発に終わってしまっては、目的を達成することはできません。T(=タイミング)、P(=プレース)、O(=オケージョン/場合)を考慮して、ターゲットとする顧客の意思決定スタイルや行動形式に合わせる必要があります。コミュニケーション戦略は、顧客の購買決定を左右する反応プロセスに応じて組まれるべきなのです。この反応プロセスは、以下の5つに分類されます。

  • Attention(=注目)
  • Interest(=関心)
  • Desire(=欲求)
  • Memory(=記憶)
  • Action(=行動)

これらはそれぞれの頭文字を取って、AIDMA(アイドマ)と呼ばれる考え方で、顧客の購買意思決定のプロセスを説明するものです。顧客の購買に関わる心理が、上記の4つのどのプロセスに存在するかで、取るべきプロモーションの手法が異なります。プロモーションの手法には、「広告」、「販売促進」、「パブリシティー」、「人的販売=営業」、「ダイレクト・マーケティング」の5つがあります。

コミュニケーションのタイミング

コミュニケーション戦略の新しい考え方として、行動前、接触時、使用時、体験後の4つに区分して、顧客とのコミュニケーションを捉えるようになりました。

行動前コミュニケーション

自社の商品やサービスを、顧客に認知してもらうためのコミュニケーションです。自社から市場に積極的に働きかけ、商品やサービスの魅力をアピールし、顧客に認識してもらうものです。

接触時コミュニケーション

顧客に自社の商品やサービスを理解してもらうためのコミュニケーションです。これは、プロモーションの手法そのものと言って良いでしょう。購買してもらうのが目的ですが、最近では関連した商品の購入を薦める共生型もあります。

使用時コミュニケーション

購買した商品やサービスに、納得してもらうコミュニケーションです。 消費者が抱く多少の不安感を取り除くための行動です。化粧品や健康食品であれば、広告などのメディアで「あの有名人も使っている」などの情報を伝えると、それを見た消費者は安堵するでしょう。

体験後のコミュニケーション

顧客に、自社の商品やサービスを満足してもらうためのコミュニケーションです。自社の商品に満足した顧客の、口コミを上手に利用する方法があります。満足した顧客は強力な味方となり、最も効果的な広告宣伝となる訳です。また、残念ながら満足しなかった顧客に対しても、クレーム処理というコミュニケーションを誠実に行うことで、再度の購買につながる可能性もあります。

顧客の購買心理プロセス

企業が発信したメッセージを顧客が受け取り、購買行動を起こすまでには、AIDMAというプロセスがあります。さらに近年では、インターネットの発達やSNSの普及に伴い、「AISAS(=アイサス)」というモデルも登場しています。

  • Attention(=注目)
  • Interest(=関心)
  • Search(=検索)
  • Action(=行動)
  • Share(=共有)

AIDMAとの比較で考えると、Search(=検索)とShare(=共有)が相違点です。顧客のインターネットによる情報検索や、ソーシャルメディアを介した顧客間でのコミュニケーションに注目したモデルです。クラウドコンピューティングや、アプリケーションを利用した情報共有により、一部の組織が持つデータベースをはるかに超える情報活用が可能になりました。これからの社会を視野に入れた、新しいコミュニケーション戦略が求められています。

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コミュニケーション・ミックス

最適化されたコミュニケーション戦略は、TPO以外にもいくつかの要因が考えられます。最小のコストで最大の効果を発揮するためには、コミュニケーション戦略をマネジメントしなければなりません。

コミュニケーション・ミックスというコンセプトがあります。これは、広告、パブリシティー、販売促進(SP=セールスプロモーション)、人的販売(営業)、ダイレクトツールの5つのプロモーションツールを用います。ターゲットとする顧客に対して、ふさわしい要素を組み合わせて実行する戦略です。

そのプロセスは、下記の5段階のステップを踏みます。

1.目標の策定

ターゲットとする顧客の、何を変化させることを目的とするのか。売上目標及び、市場のシェアはどれくらいかを設定します。

2.予算の決定

コミュニケーション戦略は、短期・中期に応じて、時間もコストも伴います。自社の経営資源を考慮した、予算の策定が必要です。

3.一貫したメッセージ

自社製品やサービスの、何を前面に押し出そうとするのか。盛り込むアピール点やテーマなどのアイデアは、統一感を持たせることが重要です。

4.コミュニケーション・ミックスの決定

5つのプロモーションツールの、それぞれの特性を確認し、各ツールを実践する上での予算配分を決定します。

5.効果の測定

コミュニケーション戦略の実施により、売上や市場シェアはどう変化したのか。ターゲット顧客へのコミュニケーションにおける目標は、どれだけ達成できたのか、を評価することも大切です。ただこれは、他の要因も関係してくるので、コミュニケーション・ミックスの効果測定は、一度で済ませるのではなく、何度も行うべきでしょう。

コミュニケーション・ミックスにおける2つの手法

コミュニケーション・ミックにおいては、大きく分けて2つの手法が存在します。

プッシュ戦略

AIDMAやAISASに照らし合わせると、「Memory(=記憶)」、「Search(=検索)」、「行動(=Action)」を喚起させるのに有効です。流通業者を介して、顧客に商品をプッシュする手法です。商品の流通ルートと同じ方向への働きかけとなり、販売促進や人的販売がより重要視されることになります。

プル戦略

AIDMAのうち、「Attention(=注目)」、「Interest(=関心)」に重点を置いた戦略です。顧客が商品を購入する前の段階で、広告やPRなどのツールでコミュニケーションを取る手法です。メーカーからのメッセージを受け取った顧客は、流通業者に対して商品を指名し、流通業者はメーカーに商品の発注を行います。顧客が生産者から、供給を引っ張り出す(プルする)ことを目的としています。

中小企業にコミュニケーション戦略が必要な理由

企業が市場において存在感を示し、自社商品やサービスが常に顧客に選ばれるためには、自社ブランド構築が喫緊の経営課題でしょう。これは、大企業も中小企業も変わりません。

しかし中小企業は、この点に関しては弱者と言わざるをえないでしょう。なぜなら、大企業はグローバルの観点で通用するブランドを持つのに比べ、中小企業は市場における自社ブランドの認知度が極端に低いことにあります。

中小企業は、高い品質と機能を持った製品を作れるにもかかわらず、自社名や商品名が一般の顧客や顧客企業に知られていないのが現状です。そのため、中小企業の商品やサービスは、市場において実際の価値より低い評価を受けることになります。

このような状況を回避するためには、自社のブランドを確立させ、市場におけるポジションを確固としたものとし、事業戦略に基づいた顧客との適切なコミュニケーションが重要になるのです。

コミュニケーション戦略を妨げる要因

中小企業においては、ブランディングを活かしたコミュニケーション戦略が軽視されることが多く、ブランディングへの取り組みは、広告やロゴの作成などに限定されていることが多いようです。

また中小企業は、コミュニケーション戦略を実行に移すためには、経営資源や時間、プロセスなどが限られてしまいます。

さらに中小企業のトップは、財務上や生産ライン、売り上げに関する問題を重要視し、ブランディングやコミュニケーション戦略に関しては無関心であることが多いように思われます。

そして最もネックになる点は、コミュニケーション戦略を実践する人材や専門家が、自社内には存在しないことがあるということです。

中小企業こそコミュニケーション戦略に向いている!

中小企業のトップの多くは、経営全般についての意思決定に大きくかかわる存在です。ゆえに中小企業は、トップがコミュニケーション戦略の重大さを理解し、すみやかに意思決定を行えば、中長期的な施策を実行することもできるのです。従って中小企業のトップは、コミュニケーション戦略を必要な競争戦略の一つと考えて、スピード感をもって指揮を取ることが求められています。

企業が商品やサービスを提供し、対価を得るためには、市場において存在感を示し、ターゲットとする顧客に認知される必要があります。そのための有効な手法が、コミュニケーション戦略である理由を解説しました。

大企業であれば、社内のマーケティング担当者が行うものですが、中小企業ともなると、社内に適当な人材がいないため、トップ自らがコミュニケーション戦略の指揮をとるわけですが、にわか仕込みの知識では使いものにはなりません。そのような場合、コミュニケーション戦略の専門家として、コンサルティング会社の支援を検討してみてはいかがでしょうか。

「ブランディング」に関する記事はこちらよりご覧ください。

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