戦後から今日に至るまで、日本経済をけん引してきたといわれる中小企業。今も小さな会社はその数を増やしており、存在感は増すばかりですが、個別に考えると、数多ある中小企業の中で、他社との差別化を図り一定の存在感を示すには、ブランディングが欠かせません。
ここでは、企業ブランディング戦略についての基本的なコンセプトと、ブランドをデザインするまでの大まかな手法について解説します。
変化しつつある「消費者に与える満足感」の定義
中小企業は、雇用創出と日本の輸出を支えるという役割を担い、国内総生産の成長率においても大いに貢献している存在です。
平成30年6月に総務省と経済産業省が公表した「平成28年経済センサス・活動報告」によると、中小企業・小規模事業者の数は、2016年6月の時点で、3,578,000人となりました。大企業を含めると日本の企業全体における割合は99.7%となり、企業体のほとんどが中小企業ということになります。
このような状況下で、中小企業を取り巻く市場の環境も大きく変化しています。
ある時期までは、一定のクオリティの商品を安い価格で提供すれば、商品は売れました。しかし競合他社が増える中、市場には同じような商品やサービスが出回り、他社との差別化も図りにくくなっています。
消費者はどのような基準で、商品やサービスを選んでいるのでしょうか。判断基準の1つとして、「何が自分を満足させてくれるのか」という事は重要な要素となっているでしょう。
この「満足させる」要因は、商品の味や使い心地、デザインなど商品そのものに対するものもあれば、店の雰囲気や接客の態度、ロゴマークなど様々です。さらには商品誕生に至るストーリー、商品を支持している有名人、商品に対する信頼感や安心感など、目に見えないものも含めての満足感が求められているのです。
これら消費者に与える満足感を、「ブランド」と呼びます。商品やサービスに、消費者を満足させるブランドを付加し提供できる企業だけが、他社との差別化を図ることができ、消費者からの支持を獲得できるのです。
中小企業の「コーポレートブランディング」リサーチ結果
中小企業が抱くブランドに対する意識も、変化しています。中小企業ブランド戦略室を運営する株式会社アイディーエイは2017年2月、従業員数300名以下の企業の男女220人を対象に、インターネットによる意識調査を実施しました。
・「施策を行っており、効果も出ている」/3.7%
・「施策を行っているが、改善が必要」/27.2%
・「施策を行いたいが、何から始めていいか分からない」/13.2%
・「施策を始めたいが、どこに依頼していいか分からいない」/3.3%
・「まだ施策を行っていないが、これから検討する」/18.5%
施策を実施しているか否かを問わず、ブランディングに関心を寄せている中小企業は、全体の65.9%におよぶことがわかりました。
さらに上記のうち、「施策を行っているが、改善が必要」と回答した企業に対し、「今後、どのような改善策が必要か」との質問を行いました。それによると「進め方の見直し」回答した企業が全体の38%を占めました。
これらの意識調査から分かるのは、中小企業の企業ブランディングに関する意識の高さと、それでも、どのような施策をすれば効果が出るのか、探しあぐねている事実です。
マーケティングとブランディングの違い
ではここからは、ブランディングとは何か、どのようにブランドをデザインしていくかについて見ていきましょう。
よく見かけるのが、「マーケティング」と「ブランディング」とを混同するケースです。では両者には、どのような違いがあるのでしょうか。
端的に言うと、マーケティングは「自社のイメージを自社から顧客に伝える行動」であり、ブランディングは「顧客に自社のイメージを抱いてもらう行動」と言えます。
一見似ているようですが、外部からの評価が企業ブランドを構築するのです。企業が自社製品をアピールするのはマーケティングであり、これは通常の企業活動なので消費者の心にはさして響きません。
これに対し、外部からの評価を得るために、顧客に自社が大切にする考え方や思いを理解してもらい、好ましいイメージを抱いてもらうための行動がブランディングです。
ブランドの構築方法
ライターメーカーの老舗として、世界的に有名なジッポー社ですが、同社のフラッグシップであるジッポーにまつわる逸話はいくつも語り継がれています。
第二次世界大戦中、ベルギー戦線に従軍していたアメリカ兵がドイツ兵に狙撃されました。ライフルの銃弾は胸ポケットに入っていた聖書を貫通し、ジッポーに当たりましたが筐体は弾をしっかりと受け止めました。兵士の命は助かり、ジッポーはへこんでしまいましたが、オイルを補給すれば今でも着火するそうです。
1961年の広告では、「どんなに古くても、無償で修理します」というサポートメッセージを顧客に伝えました。商品の頑強さをアピールすると同時に、いつまでも顧客に寄り添う姿勢を訴えるブランド戦略を展開したのです。
このように、大切なのは顧客に自社の製品やビジネスに対して、良いイメージを持ってもらうことなのです。
ブランディングとは、その企業でなければできない仕事を突き詰めることにほかなりません。経営者は企業の理念や方向性から、その企業にしか提供できない価値(アイデンティティ)を示すことが重要です。自分たちだからできる事業があることを、明確に表現してこそ、市場で生き残っていくことができるのです。
シャネルという化粧品ブランドがあります。「シャネル」の顧客は、創始者のココ・シャネルの人生観に共感して、「シャネル」というブランドにお金を払っているのではないでしょうか。彼女のブランドが世界中の女性に受け入れられているのは、単なるファッションではなく、彼女の「常に美しくありたい」という思想とも呼べるスタイルに共鳴したからでしょう。
インナーブランディングとアウターブランディング
また、企業のブランディングは、大きく2つに分けられます。
1つは「インナーブランディング」と呼ばれる社内浸透。もう1つは「アウターブランディング」という名称の社外浸透です。両者はどちらか一方だけが存在するというものではなく、車の両輪のような関係にあります。
経営者は、企業のビジョンやミッション、価値などを表す企業理念を作成します。全てはここから始まります。
インナーブランディングは、社員に対する取り組みで、日々の仕事や社員研修などでブランドの浸透を図るものです。企業理念に沿って事業を推進し、仕事の質を向上させていく活動です。
これに対してアウターブランディングとは、社外の人間に対して行う取り組みであり、広告や広報活動などで外部への浸透を行います。これにより、他社との差別化を促し、企業文化に沿ったサービス提供が可能になります。
この2つのブランディング活動が目指すのは、事業の発展と企業価値の向上です。社員の行動が顧客の体験価値を創造し、それが顧客の意識の中に、ブランドを生み出すことに繋がるのです。
企業にとってのコアアイデンティティ、コアコンピタンスはなにか? こうした問いを社内で考え続けることは、非常な労力かと思います。また、こうした客観的な視点を社内で持ち続けることは大変です。
「ブランド」「人材」「予算」
ブランド戦略は、自社の商品やサービスを顧客に認知させ、「買いたい」という気持ちを起こさせるという、経営戦略の中でも一つの大きなテーマです。
ブランド戦略の基本は、企業の方針と事業目標にあります。企業方針は企業理念と言い換えても良く、経営者のみが語ることのできるものです。自分たちが何を社会に提供しているか、明確なメッセージを伝えることのできる企業は、市場での地位を確立し、常に消費者に選ばれる存在となります。
一般的に、中小企業は大手企業に比べてこのブランド力が弱いと言われています。中小企業は品質の優れた製品を生産していても、その製品名や企業名があまり知られていないのが現状です。その結果として、中小企業の製品は、市場においても実際の価値よりも低い評価を受ける、「ディスカウント現象」が生じることになりました。
また中小企業は、自社ブランドの認知度が低いので、マーケティング力やブランディングに関する高度な知識を持った人材が集まりにくいという事実もあります。
専門家の存在が中小企業の三重苦を解消
ブランド戦略を実践する上で、まず把握しておかなければならないことは、「どのような商品やサービスを提供すれば、顧客が満足するか」です。これは顧客ニーズ、あるいは消費者ニーズと呼ばれるものですが、それには市場調査が欠かせません。大手企業ほど、市場調査を重視しており、そのために必要な専門の人材と予算を十分に確保しています。
自社の商品やサービスのどの部分が、消費者に受け入れられているのか。自社には何が不足していて、競合他社は次にどのような手を打とうとしているのか。市場調査で採取したデータを活用して、今後、どんな製品を提供するべきかを絶えず検討しています。
市場調査から得られたデータを読み解くには、高度な分析能力が求められます。自社が勝負する市場はどこか、そして今後の可能性はどこに隠れているのかを、データを読み解いて考え出さなければならないのです。
大手企業では、社内にマーケティング部門のような専門チームを擁しているところが多いようです。消費者ニーズに自社の企業理念や理想を照らし合わせ、商品やサービスの開発にいそしんでおり、この繰り返しが自社のブランドを作り上げているのです。中小企業には、この視点が決定的に欠けており、その結果として、前述したような「ブランドなし」、「人材なし」、「予算なし」の「三なし」状態が生じてしまうのです。
では、中小企業はブランド戦略を実行するのは無理なのかといえば、必ずしもそうとは言い切れません。何事にも専門家というものが存在します。ブランド戦略に特化したコンサルティング会社に依頼することで、上記のような「三なし」状態から脱却することが可能になり、同時に社員にとっても、マーケティングのような慣れないにわか業務に煩わされることなく、本来やるべき業務に専念することができるというメリットがあるのです。
欠かしてはいけない 「他者の知見」
中小企業の経営者の中には、自らが現場の最前線に立っている方も少なくないでしょう。ただそういうトップが、必ずしも市場や自社の状況を熟知しているか、といえばそうでもないのが現実ではないでしょうか。
会社の将来を見据えて、ブランド戦略に投資しようという中小企業の経営者は、まだまだ少ないと言わざるを得ません。事業経営も順調で、資金がない訳ではないのでしょうが、そこに価値を見出せないと感じているトップが多いということでしょう。
一方、資金不足で、ブランド戦略を自社にのみで実践できる状況にはないが、危機感を感じて色々と取り組んでいる企業も存在します。中長期的なスパンで、市場においてどちらが生き残れるかはお分かりでしょう。
創業100年を超える老舗の大手企業が、自社ブランドを見直し、再構築することは非常に重要です。そうすることにより、伝統の上にあぐらをかいた、消費者をかえりみない経営方針を見直すことになるからです。
創業時から受け継いでいる企業理念と、現在の社会における自社の役割を見比べてリブランドするには、そうした大企業でさえ、外部からの専門家を招いて意見を仰ぐそうです。
まとめ
時代の変化を読み取り、社会に則したビジョンや企業価値を見出すには、他者の知見を活かすことが大切です。中小企業こそ、ブランド戦略のプロであるコンサルティング会社の意見に耳を傾けてみてはいかがでしょうか?
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