「マーケティング」の誕生から現在まで

【マーケティングとは、効率化と差別化を基軸にしながら、市場需要(顧客ニーズ)を喚起・開拓し、さらには独占的(支配的)な市場の獲得を目指して、しかけ(戦略)作りを行っていく一連のプロセスである】

この言葉は、『マーケティング・ストラテジー』(2000・中央経済社・小木紀親)からの引用ですが、改めて、これは一体どういう意味なのでしょうか? 本記事では、「マーケティング」の本質について学んでいきます。

目次

マーケティングの歴史が語る2つの原則

マーケティングの歴史

マーケティングの意義や在り方は、経済の変化の歴史に沿ってさまざまに変容してきました。マーケティング史全体については割愛しますが(興味があれば、ぜひ専門書を紐解いてみてください!)。本記事では、マーケティングの誕生と、マーケティング史最大のパラダイム転換を紹介します。そして、源流を踏まえ、マーケティングがマーケティングであるための条件として、2つの原則を定義してみたいと思います。

マーケティングの誕生

マーケティングの誕生

マーケティングという概念とそれが意味する現象は、19世紀末から20世紀初頭のアメリカの市場で生まれたものです。メールやインターネットどころか、「電話」が発明されてからアメリカ社会を網羅するまでの時期と、ほとんど重なるくらい昔のお話。

当時のアメリカといえば、フロンティア、ワイルドウェストなどの言葉に象徴される、未曾有の市場拡大が巻き起こっている真っ只中。いろいろな事業やビジネスが出来上がり、物理的に拡がり続ける市場の消費要望に応えるため、アメリカ全体で、生産量や供給力がメキメキと向上していきました。

大開拓が収束の時期を迎え、消費の伸びが頭打ちになると、供給が需要を追い越す時代がやってきます。『作れば必ず売れる』時代に、『どのようにすれば安く、大量に、ものを作ることができるか?』ということばかりを考えていた開発・製造業者たちは、やがて、

どこで、誰が、どんな商品を欲しがっているのか?

を、知りたがるようになりました。それも高い精度で。『どこへ持っていけば、たくさん売れるか?』を真剣に考える過程で、彼らは一つの考え方にたどり着くことになります。

『そこに置けば売れる場所』を、意図的に、戦略的に作り出す

これが、マーケティングの概念が生まれた時代の精神です。自然発生的に生まれる需要に社運を任せるのではなく、詳細なデータなどに基づき、自社の需要は自ら作り出していこうということ。『売れるは作れる』という力強い前提。いかにも、フロンティアの発想ですね!マーケティングが市場調査ではなく市場開拓を目的としていることは、生まれた頃から変わっていないのです。

予実管理・PDCAといった今となっては皆様おなじみの概念から、後代に現れるシステムシンキングやシナリオプランニングといった概念まで、およそ経営に利用される論理や作法のほとんどのものは、マーケティングという発想が誕生したビッグ・バンの余波によって生まれた宇宙のようなものです。

デファクトコミュニケーションズの「マーケティングコスト最適化コンサルティング」はこちら

マーケティング史最大のパラダイム転換

マーケティング史最大のパラダイム転換

それまでのマーケティングが、経営者の経営者による経営者のためのものでした。このような企業主導のマーケティングに欠けていた、社会的利益や環境への配慮などを含めてマーケティングを捉えなおそうという動きが全世界で高まったのが、ソーシャル・マーケティングへの転換期―1970年代を中心とした約20年間です。日本で消費者保護基本法が施行されたのもこの時代、1968年のことでした(その後2004年に、消費者基本法として改正され、現在に至っています)。

消費者の安心・安全に貢献できる企業こそが繁栄できる社会基盤を築こうとする世界的な機運と合流し、統合されることによって、マーケティングは、人類全体が恒久的な共存共栄を目指すことに資する、より大きな概念になったのです。

マーケティングの2つの原則

マーケティングの2つの原則
  1. 市場を事業者みずからが開拓し、成熟させていくための活動であること(能動性)
  2. 長期的視点を含み、人間社会全体の利益最大化に繋がる活動であること(全体性)

マーケティングは上記2つの特質を備えている必要があります。能動性とはアクションにつながること―市場の調査や分析をしただけではマーケティングの序盤戦に過ぎないということ。そして、自社の利益のために他社や消費者を踏みつけて進もうとする全体性なき戦略は、1980年代までに終焉を宣告された、古い時代のマーケティングだということです。

消費者はもはや、弱者ではない

消費者はもはや、弱者ではない

ところで、1970年代前後、消費者保護の理念を確立しようと国際社会が奮起した時代と、現代とでは、事業者に対する消費者の立場はまったく変化していると思いませんか?

『弱きもの』としての消費者の姿は、現代先進国には最早ありません。いま、マーケターが相手にしているのは、『プロの顧客ネットワーク』という脅威的存在なのです。

アルビン・トフラーというアメリカの未来学者が、1980年頃、未来の消費者の姿を予見した『生産消費者』という概念を提示しました。生産消費者(プロシューマ・prosumer)とは、生産者(producer)と消費者(consumer)をかけ合わせた造語であり、情報社会の発達の先では、専門性を手に入れた一部の顧客が生産者の役割をも果たすプロフェッショナルユーザになっていく、という預言じみた論説でした。

ところが、事実はどうでしょう。時代の進歩は、当時のトフラーの預言を遥かに上回る強い消費者を作り出しました。よもや、顧客の『誰もが』プロ並みの高度で豊富な知識を持つことができ、そればかりか『既存ユーザも見込み顧客も、知識が豊富なセミプロも、場合によっては業界内部に通じた本物のプロまで』もが仮想的な人脈を自由に形成して、いち顧客の意思決定を(概ね善意のもとに)支援する時代が来ようとは、トフラーほどの先見性をもってしても見通すことができなかったようですね。

私たちはどうやら、先人の予測した未来の遥か先まで来てしまっているようです。

顧客はこうしてプロ顧客になった

プロ顧客

三谷宏治(出版当時アクセンチュアの経営コンサルタント)は著書の中で顧客のプロ化について下記の3つの観点にまとめ、知識においても、またその処理能力においても、顧客が事業者側を凌駕する時代が訪れつつあると述べています。2003年の書籍です。2018年の今、顧客は事業者を完全に、そして圧倒的に凌駕する存在になっていると言えます。

  1. 情報収集の高度化
  2. 相談相手の高度化
  3. 分析・検討の高度化

引用:『crmマーケティング戦略[顧客と共に]』(2003・東洋経済新報社・三谷宏治)

改めて、情報格差を優位性として顧客から利益を搾取するような営業・販売の戦略―『顧客をうまくだまして儲けを出すスタイル』は、通用しない時代だということがわかりますね。

この顧客のプロ化に直面し、先進的な取り組みを行ってきた企業には、情報にフタをすることなく、逆に情報をどんどん与えることで顧客のプロ化を促進する施策が多く見られます。

顧客にどのような情報を与え、どのようにファンになってもらい、どのような価値を一緒に生産するパートナーシップを構築していくのかということを考え抜いた先に、現代マーケティングの最適解があるはずです。マーケティングとは『能動性と公益性を備えた市場開拓のための戦略』であると、前項で定義しました。その原則を実行していくために、ネットワーク化された現代の社会インフラは、渡りに船ということです。

「マーケティング」に関する記事はこちらよりご覧ください。

コンテンツマーケティングを成功に導く3つのステップ