◆映画「ブルーゴールド~狙われた水の真実~」
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水戦争――。この言葉が日本に流通したのは、丸紅経済研究所の柴田明夫所長が「水戦争~水資源争奪の最終戦争が始まった~」(角川SSコミュニケーションズ)を出版した2008年頃だろう。同書に書かれている通り、現代の水資源の減少は相当深刻なものである。地球温暖化とともに砂漠化が拡大、また湿地帯の破壊などから本来地球が備えていた半永久的な水の循環機能が支障をきたしている。
「環境問題」は、今や多くの人が意識している問題である。出来るだけ環境破壊を抑えようと日々努力している人も多いだろう。ただそれでも、“便利な商品”を完全に払しょくすることはなかなかに難しい。例えば自動車。環境に配慮し、いくら燃費のいいものを使おうとも、1台を製造するのに約35万リットルという多量の水が使われている。また森林伐採を防ごうと紙の使用量を減らしオンラインで完結させようとしても、使うパソコンの製造にも水は絶対に必要だ。マイクロチップたった1枚にだって32リットルもの水がいるのだ。このように、我々は日々の生活の中でほとんど無意識的に水を消費していると言っていい。
今回紹介する映画「ブルー・ゴールド~狙われた水の真実~」、このような認識をわれわれにもたらしてくれる。同時に水ビジネスの裏側にある“途上国の植民地化”を徹底的に調査し、コレラ感染の可能性のある水を飲むしか生きるすべがない人々の惨状を教えてくれる。監督は米国出身のサム・ボッソ氏。小説家や脚本家としての顔も持ち、「Hackers Wanted」(2009年)ではコンピューターハッカーの内情に迫るなど、多種多様な作品を撮り続けている。プロデューサーは東ティモールやプロパガンダなどを主題に映画制作を続けるマーク・アクバー氏である。
◆「民主化」=「植民地化」
“水はタダ”の時代は終わった。ビジネス・投資対象としての“水”に触手を伸ばす大企業は多く、特に早期段階から世界の水ビジネスを支配しているのが“ウォーター・バロンズ(水男爵)”と呼ばれるヨーロッパの水企業群である。代表格のスエズ、ヴェオリア(ともにフランス)、テムズ・ウォーター(英国)の3社は、旧植民地に対して「公平な価格で便利に水を提供できる」と振れ回り、他国の水の利権を手中にする。現在では上下水道施設、料金徴収、排水処理など水関連の事業を一貫して管轄し、まさに“新しい形の植民地化”をなそうとしている。映画の中では、人間にとって絶対不可欠な水という資源を握ることで、新しい支配体系を作り出そうとする企業を批判している。
◆ペットボトルの水は
「本当においしいのか?」
そもそも、消費者はなぜエビアンやボルヴィックなどのペットボトルの水を購入するのだろうか。本当に、味が違うからだろうか。映画の中で、制作者側がある水企業の広報にこう問い合わせる場面がある。「御社の商品、水質は水道水と違いますか?」すると、広報は「現地の水道水とほとんど水質に違いはない。我々はペットボトルに入れられた水、という便利さを売っているのです」と答えるのだ。ちなみにアメリカではガラスよりもプラスチックのほうが税率が高いため、瓶のほうが安く製造できる。だが人々は瓶よりも軽いペットボトルを選ぶ。企業は消費者にニーズに合わせた商品を作るため、コストが高いペットボトル入りの水を製造し、高い税金が加算された商品が売られる仕組みとなっているのである。
このように企業のあらゆる思惑に左右させられる水という商品に、“適正価格”がつくはずがない。極端な民主化、ビジネス化が進み政府主導の水開発から大きくかい離すると、水の価格は高くなる。さらに企業の都合により、公共事業時として行われていたときよりも、水インフラの整備が遅れている地域もある。その両方が同時に発生してしまった地域には、恐ろしい事態が待ち受けている。蛇口をひねっても水が出ず、ペットボトルに入った水は高くて買えない――。焼けるような喉の渇きに耐えられない。どうにかしなければ、明日まで生き延びられそうにない。そんな状況に陥った時、もし目の前にコレラ感染の危険のある川が流れていたらどうだろうか。もしあなたがそこにいたら、その水を絶対に飲まないと断言できるだろうか。
いまわれわれに出来ることは、水を取り巻く政治・ビジネス環境の今をしっかりと理解し、ペットボトル入りの水を手にした時、自らの購買行為が世界にどのような影響を及ぼすのかに思考をめぐらすことだろう。
◆希求力を高める技術
メッセージを物語で包む
今回の作品は、物語性を一切排除し、淡々と検証結果を連ねることでメッセージを消費者に“露骨に”伝える手法を取っている。だが、あまりに淡々とし過ぎて、アメリカの教育番組「ディスカバリーチャンネル」を見ているような退屈さがあった。強制的に“勉強させられている”感覚とでも言おうか。また、「時計仕掛けのオレンジ」であの凶暴な主人公アレックスを演じたマルコム・マクダウェル氏の信じられないほど穏やかなナレーションが耳に心地よすぎて、正直眠くなることもしばしば。今後、ボッソ監督がまたメッセージ性の強い作品を作るのであれば、マクダウェル氏が1967年に出演したケン・ローチ監督の「夜空に星のあるように」のように、メッセージを物語に包んだ方が、より大衆的に受け入れられるだろう。
ローチ監督の作品はメッセージと物語のバランスが秀逸だ。10作目にあたる「ブレッド&ローズ」などは、メキシコ移民の明るい気質と適度な物語性で、米国の重苦しい労働問題を見事に包んでいる。物語作品として純粋に楽しんだ後、自然発生的に重い問題を考えさせられる仕掛けは脱帽モノだ。ローチ監督がカンヌ国際映画祭審査員賞、高松宮殿下記念世界文化賞などを受賞していることからも、社会的なメッセージを物語に組み込むことは、芸術的に悪ではないことは明白である。今後ボッソ監督には、“眠くならずに社会問題への喚起を促す”作品作りを期待したい。
作品プロフィール
「ブルーゴールド~狙われた水の真実~」
【スタッフ】
●監督:サム・ボッゾ
●プロデューサー:マーク・アクバー
●ナレーション:マルコム・マクダウェル
●2008年
●アメリカ
地球温暖化と人口の増加に伴い、水資源がなくなるのが現状だ。
図:人口増加に伴う水資源減少の図
「水戦争の世紀」
トニークラーク
ウォールストリート
32246340
『ブルー・ゴールド 狙われた水の真実』
地球温暖化より深刻な水危機を描く衝撃のドキュメンタリー
“水戦争”の時代、21世紀を生きのびるためのサバイバルムービー
【解説】
海に囲まれ山林が多い日本に住んでいるとピンと来ないかもしれないが、今後の世界の人口増加を考慮すると水資源は足りなくなるのが現状だ。そして、日本の山林の地下水脈は最近外国企業に狙われている事がつい先日報じられていた。そのことからして、20世紀が“石油戦争”の時代だとしたら、21世紀は“水戦争”の時代になると言われている。
『ブルー・ゴールド:狙われた水の真実』では世界で起きている様々な“水戦争”の現状をドキュメントしている。水企業は、開発途上国に水道事業の民営化を迫り、ウォールストリートは、淡水化技術と水の輸出計画に投資の狙いをつけ、腐敗した政治家は、水の利権を自らの利潤や政治的利益のために利用し、人類の財産である水資源を独占しようとする企業はボトル・ウォーター・ビジネスで世界中から利益を上げる構造を作りあげる。そして、“石油戦争”から“水戦争”の時代となった現在、軍の管理による水資源の発掘は、世界規模の“水戦争”の舞台となろうとしている。
またこの映画では、市民が清涼飲料水メーカーを訴えたアメリカでの裁判、国連に「水は人権であり公共信託財」である水憲章採択を迫る運動、水道が民営化されたボリビアでの抗議運動など、“水”をめぐる人々の権利闘争を、世界規模で追跡していく。
『「水」戦争の世紀』著者モード・バーロウは言う、「これは私たちの革命、私たちの戦争なのです」と。
【スタッフ】
監督:サム・ボッゾ ナレーション:マルコム・マクダウェル(時計じかけのオレンジ)
■商品クレジット:DVDセル|品番:ULD-553|POS: 4932487025534|¥3,990(税抜本体価格¥3,800)
DVDレンタル|品番:ULD-554|POS: 4932487025541|¥10,500(税抜本体価格¥10,000)
|2008年|アメリカ|90分|カラー|ドルビー|英語・スペイン語・スロバキア語・フランス語|ステレオ|片面一層
■発売日:6月4日(金)|注文締切日:5月6日(木)問屋着日:5月21日(水)|店頭着日:6月3日(木)発売・販売:アップリンク